平成28年12月19日追記
銀行の預金の相続手続きは、銀行側の取扱事務にのっとり、銀行指定の書類に代表相続人を決め、相続人全員の 署名と実印の押印と、戸籍、印鑑証明書の提出がもとめられることが多いです。
ただこれはあくまでも銀行側の取扱いであり、法律上は、相続人の一人から、自己の相続分のみではありますが、請求することも可能で「あった」ことをご存知でしょうか(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)。
そして平成28年12月19日、最高裁の決定により、この法律上の取扱いが変更されて、銀行の預金の相続手続きに、相続人全員の実印が必須になるように判例変更がなされました。
- 相続でひきついだ通帳(普通口座)をおろす場合、相続人全員の実印がないとおろせなくなりました
- 前提知識 相続手続きにおける「遺産分割」ってどんなものか?
- 今までの法律関係では、どうだったのか?
- 実務は、どう変わるか?
相続でひきついだ通帳(普通口座)をおろす場合、相続人全員の実印がないとおろせなくなりました
上記リンクの第一段落に以下の記載があります。
預金を他の財産と合わせて遺産分割の対象にできるかどうかが争われた審判の許可抗告審で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は23日、審理を大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付した。実務では当事者の合意があれば分割の対象とするケースが主流となっており、「対象外」としてきた判例が見直される可能性がある。弁論期日は未定。
上記リンクの記事は、サラッと書いてありますので、ちょっと解説をしてみようと思います。
平成28年6月22日追記
最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、弁論期日を平成28年10月19日に指定されたようですね。
平成28年10月20日追記、平成28年11月23日追記(リンク切れ修正)
年内に最高裁の判断がでるだろうとのことですね。
平成28年12月19日追記
とうとう出ました!
こちらから「裁判要旨」をご覧ください。
前提知識 相続手続きにおける「遺産分割」ってどんなものか?
お亡くなりになった方がいて(この方のことを「被相続人」と言います)、この方が持っていらっしゃった財産(「遺産」)を共同相続人全員で、話し合いで分けるという手続きです。
民法
(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 省略
2項で、家庭裁判所を使う手続きが書いてありますが、その前に1項がありますので、遺産分割は、ちゃんと全員参加できるならば、家庭裁判所は使わなくて良い手続きなんだ、ということになります。
ちゃんと全員参加しなさい!ということは、明確には書いてありませんが、ことの性質上そりゃ全員参加がもとめられるよね、ということでご了承ください。
そして、遺産分割の効果は、どうなるかといいますと、
(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
とりあえず、ただし書き以下は、今は無視していただいて、
遺産の分割をすると、相続開始時にさかのぼってその財産は、その遺産分割協議でこの人と決めた人のものとなります。
ここでご指摘するのは、相続放棄との違いです。今は、なにをご説明しているかというと、遺産分割はどのようなものなのかを説明しています。相続放棄は、人に着目しているけど、遺産分割は、物(「遺産」)に着目している、と言ってよいと思います。
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄は、自分は、相続放棄します!という手続きです。そして最初から、家庭裁判所に申述しないといけません(書類を提出します)。
そして相続放棄の申述をしたら、その人は相続人ではなくなります。
これに対して、遺産分割は、相続人全員で、「この物(遺産)は、誰々のものにしよう!」という手続きです。話がまとまるならば、家庭裁判所の出番はありません。
そして分け方は、自由です。全員で話し合いをして納得していますので。
法定相続分には、しばられません。
Aさんは、不動産。Bさんは、お金。という分け方もOKです。
遺産分割は、この物(遺産)は、誰のものにしようか、という手続きです。
一応、前提知識を終わります。
今までの法律関係では、どうだったのか?
銀行の普通口座は、遺産分割の対象にならない=当然に法定相続される!でした(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)。その理由は、銀行に対して預金者は、預金債権があり、この預金債権は、金銭債権であり、金銭債権は、可分債権ですよ!という、そういう理屈でした。
このことによってどのようなことがおこるかというと、銀行窓口において「相続人全員の実印が必要ですよ」という強硬な銀行を相手にした場合、相続人のお一人から、自己の相続分のみではありますが、裁判をおこしてお金をおろすということが可能でした。可分債権ですから。
下記リンクは、郵便局の定額郵便貯金だけは、上記の例外として、もともと相続人全員のはんこが必要だったんです、というエントリです。さらにその例外として、相続人の1人から手続きができた(今回できなくなった)ということまでを説明しております。
また、家庭裁判所での調停手続きにおいては、以前から、本来は法定相続されるはずの預貯金を(それぞれの法定相続分しかもらえないはずという意味。可分債権ですから)遺産分割調停の手続きにのせるということはなされていました。
実務は、どう変わるか?
銀行さん側は、仕事はやりやすくなるでしょう。相続の全部の案件について、「相続人全員の同意が必要ですよ!(遺産分割をやってからきてください)」ということが、法律上、正しいということになるのでですね。
筆者である私の、最初の直感は、『なんでそんなに銀行の味方する必要あるの?』っていう考えではあったのですが、よくよく考えると、そんなに悪くないやり方のような気もしてきました。これまで一番有利だったのは、遺産の増加に、または減少の防止に、貢献していない相続人が、さっさと自分の相続分のみをおろすということでしたから。
最高裁の決定から、実務は大きく変わることになるかもしれません。とりあえず、今日は、これまでっ。