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仮差押について解説します。不動産の仮差押です。

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今日は、不動産の仮差押についてご説明します。

これは不動産の仮登記とは違います。

不動産の仮登記は、不動産登記法にその規定がありますが、不動産の仮差押は、民事保全法にその規定があります。

 

民事保全法
第二款 仮差押命令
(仮差押命令の必要性)
第二十条  仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2  仮差押命令は、前項の債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発することができる。
(仮差押命令の対象)
第二十一条  仮差押命令は、特定の物について発しなければならない。ただし、動産の仮差押命令は、目的物を特定しないで発することができる。
(仮差押解放金)
第二十二条  仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。
2  前項の金銭の供託は、仮差押命令を発した裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。

 

 

仮差押をしようとする人は、その目的物が不動産ならば、この不動産を仮差押したいです!という申し立てを裁判所にしなければなりません(民保法21条)。

そして、そもそも仮差押をしようとする人は、その仮差押をされる不動産を持っている人にたいして金銭の支払を目的とする債権をもっていないといけません(民保法20条)。

 

 

なお、仮差押をしようとする場合、こんな条文もあります。

 

民事保全法

(保全命令の担保)

第十四条  保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。

2  省略

 

この条文は、仮差押が認められる場合に、いくらか裁判所にお金を入れなければならないか?という話しです。

 

金銭の支払を目的としない債権もある?

 

はい。あります。

例えば、売買契約でいうと、売買契約が有効に成立したならば、売主は買主にたいして、金銭の支払を目的とする債権をもつことになり(金銭債権)、逆に、買主は売主にたいして、金銭の支払を目的としない債権をもつことになります(物の引き渡し債権)。

売買契約では、2つ債権が発生しています。

物の引き渡し債権も、それが円満に履行されない場合に、損害賠償債権という金銭債権に転化することはありますがーーーー

今、何の話しをしているのかといいますと、仮差押は、金銭債権をもっている人が、その金銭債権を保全するために使える制度です!ということです。

 

仮差押って差押とどう違うの?

 

民事保全法

第四節 保全取消し

(本案の訴えの不提起等による保全取消し)

第三十七条  保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認める一定の期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、既に本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命じなければならない

2  前項の期間は、二週間以上でなければならない。

3 以降省略

 

仮差押は、「お金を払え」といえるはずの人が、「お金を払え」の裁判をする前にまず物を押さえておくことができるというものです。

条文でいう本案の訴えとは、金銭債権「お金を払え」の裁判です。

これにたいして差押は、金銭債権の裁判で勝ったら、差押ができるようになります。

逆に言うと、差押は、裁判で勝つ!など民事執行法第22条で認められた書類がなければできません

ただ通常、裁判には時間がかかります。

裁判のあいだに、押さえるべき物が売却されてしまうならば、せっかく裁判に勝ったとしても換価できる物がないということにもなりかねません。

そのために仮差押という制度があります。

ここまで、仮差押は、金銭債権をもっている人のための制度である、ということを説明してきました。

 

金銭債権をもっている人が複数おり、全員に返済する十分なお金がない場合、それぞれの債権者は按分比率でしかお金がもらえません

 

債権者平等の原則です。

これの例外として、抵当権などの担保権をもっていると、裁判所の手続きによる不動産の競売代金からは、抵当権をもっている金銭債権者は、優先的にお金がもらえます

 

では、抵当権がはいっている不動産に仮差押をいれるのは、あんまり意味がないといえるのか?

 

これは一概にはいえません。


ここでもう一度話を整理しますと、仮差押債権者は、金銭債権者です。抵当権等の担保権はもっていないとします。

そして抵当権者も、金銭債権者です。

金銭債権者同士は、債権者平等の原則により、不動産がもし競売で売却されたなら、その売却代金から按分比例でお金が配当されるはずなのですが、

その例外として、一方の金銭債権者が担保権を持っている場合、不動産が競売で売却されたなら、担保権をもっている金銭債権者が優先して、お金が配当されるということになります。

 

債権者平等の原則について、説明するマンガ。その例外としての担保権についても説明している。

債権者は、裁判所がもともと把握している人のほか、自分で「わたしも債権者です!」と手をあげる必要はありますよ

 

抵当権を持っている債権者が優先するのならば、抵当権が入っている不動産に仮差押を入れることはあんまり意味が無いような気もします。

たしかに、競売によって抵当権者が満足できる金額で不動産が売却されるのなら(そして仮差押債権者の債権額までには届かない場合)、そのときは仮差押は不発!ということになります(手続きのなかで、仮差押債権者に配当がなされなくても、仮差押の登記が裁判所によって抹消されるからです)。

 

 

ただ、競売によって抵当権者が満足できる金額で不動産が売却されない場合、裁判所外の契約でもっと高値で買い取る人が出てきて、抵当権者がそっちのほうが得だと判断した場合ーーー

 

このときになされる契約を「任意売却」といいます。

 

任意売却とは

 

通常の(裁判所を通さない)売買契約です。

ただ、買主としては、きれいな不動産(担保権やら仮差押やらは消えている)を買いたいので(というかそうじゃなかったらそもそも買い手はつかない)

任意売却を仲介する不動産業者さんは、この売却金額でよいですか~と、担保権者等にお伺いをたてることになります(この売却代金が返済金として抵当権者にわたることになります)。

このときは、通常の売買契約なので(裁判所をとおしていないので)、抵当権を消すために必要な書類は、抵当権者から直接もらうことになります。

 

また、このとき当然、仮差押も自動的に消えるわけではないので、このとき仮差押債権者は「はんこ代をくれ~(そうじゃなかったら仮差押を消す書類にはんこを押さないぞ~)」ということが強く言えるようになります。


このように不動産の仮差押は、抵当権が入っていたならばまったく意味がない、とまでは言えない、債権回収の方法としては一つのとりうる方法だということになります。

 

裁判所による競売、もしくは任意売却による売却代金が、抵当権者の債権額を満足させなかったらどうなるか?

 

まず、もともと抵当権者は、金銭債権者だったことを思い出して下さい。

これの一部についてしか回収できなかったという状況です。

その残りの金銭債権(借主からみたら金銭債務)が、自動的に消えるなんてことはなく、ただ金銭債権として残るということになります。

よくよく考えると、不動産の担保価値より高い金額を貸し付けていた方が悪いという話で、よいのかなと思います。悪いといったらちょっと語弊があるような気もしますけど。

 

 

これで、だいたい不動産の仮差押についての一通りの説明になるかと思います。

ご不明な点、また間違いがありましたら、お手数ですが、ご指摘をお願い致します。